スルーしたかっただけなのに、まさかの審判を任された

省電力
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スルーしたかっただけなのに、まさかの審判を任された。
給湯室で、以前も一度言葉を交わした、名前の思い出せない相手と再び顔を合わせた。今日はできるだけ関わらず、コーヒーだけ淹れてさっさと離脱するつもりだった。省電力通信、最短ルート離脱プランである。ところが相手は、手にした菓子を前に何やら深刻な表情で固まっており、こちらが会釈をした瞬間、まるで法廷にでも立たされたかのような真剣さで、この菓子が自分ルール上「セーフ」かどうかの判定を仰いできた。

ゲスト「あの、すみません、これって甘いものに入りますかね」
自分「え、あ、まあ、入るんじゃないですかね」
(心の声:巻き込まれた。省電力通信の対象外だと思っていた相手から、いきなり判定依頼が飛んできた。)
ゲスト「でも、成分的にはナッツが主体なので、おやつというよりおつまみ寄りとも言えるかなと」
自分「たしかに、そういう見方もありますね」
(心の声:中立を装いつつ、実質どちらの味方もしない発言で凌ぐ。これが最も安全なルートだ。)
ゲスト「もしおやつ扱いだと、今週の枠を使い切ってしまうので、できればおつまみ判定にしたくて」
自分「なるほど、そういう事情が」
ゲスト「客観的に見て、どう思われます?」
自分「うーん、微妙なラインですよね」
(心の声:判定を求められているのに、判定を出さない。省電力通信の真骨頂。)
ゲスト「ですよね、微妙ですよね」
自分「はい、微妙だと思います」
(心の声:相手が自分で結論を出しやすいよう、あえて余白だけを提供する。これ以上の踏み込みは不要な消耗を招く。)
ゲスト「じゃあ、おつまみってことにします」
自分「それでいいと思います」
ゲスト「一応、記録には残しておこうと思います、おつまみとして」
自分「几帳面ですね」
(心の声:ちょうど電気ケトルが沸騰音を鳴らした。環境トリガーによる正常終了。判定を確定させずに済んだことに、静かに安堵する。)
ゲスト「あ、お湯沸きましたね、ありがとうございました」
自分「いえ、お疲れ様です」

コーヒーを持って自席に戻りながら、今日のログを振り返る。
省電力通信の基本は、明確な判断を下さずに相槌だけで乗り切ることにある。今日も「微妙ですよね」という、賛成でも反対でもない完全に中立なコメントに終始したつもりだった。ところが相手はその中立コメントを、都合よく「おつまみ判定」の後押しとして採用してしまった。判定を出していないつもりでも、聞き手の側にはこちらの発言が承認として記録される場合がある。
これは省電力通信の見落としがちな弱点だと思う。自分では何も決めていないつもりでも、相手が結論を欲しがっている状況では、どんなに曖昧な相槌でも都合よく解釈されるリスクが常につきまとう。完全な中立というのは、思っているほど安全な立ち位置ではないのかもしれない。
今日から持ち帰るなら、「判定を求められたら、相槌ではなく明確に判定を保留する」という一点に尽きる。「微妙ですね」ではなく「それは自分で決めた方がいいと思います」の方が、余計な巻き込まれを防げたはずだ。
給湯室を出た後の自律神経、残量にして体感八割。今日は特に何も消耗していないはずなのに、なぜか判定の共犯者にされた気分だけが残っている。