話を右から左に流すつもりが、気づけば投資の話にされていた

省電力
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話を右から左に流すつもりが、気づけば投資の話にされていた。
会議が始まるまでの、あの何の得にもならない数分間。後輩と二人だけで取り残された瞬間、こちらは早々にエコモードへの切り替えを決めた。この空白を無理に自分の話題で埋める必要はない。相手が勝手に喋ってくれるなら、それに越したことはないというのが、限界社会人の省電力通信における基本方針である。案の定、後輩は待ってましたとばかりに、何もしなくても毎月お金が入ってくる仕組みとやらについて、聞き慣れないカタカナを交えながら語り始めた。

後輩「先輩、複業ってもうマストだと思うんですよね」
自分「へえ」
(心の声:ACK応答一つで済ませる。深追いはしない。これが省電力通信の基本形である。)
後輩「なんかスキームとしては、最初だけちょっと頑張れば、あとは秒で自動で回る感じにできて」
自分「そうなんだ」
後輩「レバレッジって言葉あるじゃないですか、あれ完全にそれで」
自分「なるほど」
(心の声:相槌の在庫はまだ十分にある。相手が満足するまで、無限にこの三種類を繰り出せばいい。)
後輩「不労所得、憧れません?」
自分「憧れるね」
後輩「先輩もなんかやってます?複業的なやつ」
自分「いや特には」
(心の声:踏み込まれた。個人の資産状況というプライベート領域への接近を検知。だが慌てず、最短距離で受け流す。)
後輩「え、もったいないですよ、絶対アグリーしてもらえると思うんですけど、今度資料送っていいですか?」
自分「ああ、うん、まあ、気が向いたら見とく」
(心の声:純粋な相談を偽装した勧誘、いわゆるトロイの木馬の気配。だが省電力通信は断ることにもエネルギーを使わない。曖昧な返答で自然にフェードアウトさせる。)
後輩「絶対いいと思うんですよね、これ知ってる人と知らない人でマジで差が出るんで」
自分「そうかもね」
(心の声:会議室のドアが開き、他のメンバーが入ってきた。環境トリガーによる終了。危うく資料送付の確約を取られるところだった。)
後輩「あ、始まりますね、また今度話します!」
自分「うん、また今度」

会議室に入りながら、今日のログを振り返る。
省電力通信は、基本的に低コストで安定した戦略だ。「へえ」「そうなんだ」「なるほど」の三点セットだけで、後輩の独演会は特に問題なく完走できた。相手が勝手に喋り、自分はほぼ電力を使わずに済む、教科書通りの省エネ運用である。
ただし今日、唯一の穴があったとすれば、「資料送っていいですか」に対して「気が向いたら見とく」という曖昧な返事をしてしまった点だ。省電力通信における相槌は、本来イエスでもノーでもない中立信号であるべきなのに、この一言は限りなくイエスに近い温度を帯びていた。相手にとっては、これは立派な合意形成のログとして記録されてしまっただろう。
今日から持ち帰るなら、「省電力通信の相槌は、常にゼロ距離を保つ」という一点に尽きる。曖昧な肯定は、省エネのつもりが実は小さな負債を積み上げているのと同じである。次に資料が届いたときの対応は、今日の自分の発言のツケとして払うことになる。
会議前の自律神経、残量にして体感九割。ほぼ無傷で乗り切れた回だったが、後日届くであろう「先輩、資料見てくれました?」の一通に、今から静かに身構えている。