うっかり口を滑らせた瞬間、まさかの緊急招集がかかった。
待機ルームで、社内スピーカーと二人きりになった。この人に何かを話せば、情報は良くも悪くも社内全体に届くという特性を、頭では理解していたはずだった。ただ今日は、少しでも打ち解けたい気持ちが勝り、好感度ハックの勢いのまま、最近気にしている自分の体調の話まで踏み込んでしまった。話し終える前に、事態は思わぬ方向へ動き出した。
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スピーカー「今日、何か面白いことあった?」
自分「特には、いつも通りです」
スピーカー「最近どうですか、なんか変わったことあります?」
自分「あ、実はちょっと、最近寝つきが悪くて、変な健康グッズ試してるんですよ」
(心の声:好感度ハック起動。打ち解けようとして、つい踏み込みすぎた情報を渡してしまった。)
スピーカー「え、なになに、詳しく聞きたい」
自分「なんか、頭に巻くタイプの、睡眠改善グッズで」
(心の声:相手の目が輝いている。この輝きは、単なる好奇心ではなく、拡散への準備段階だ。)
スピーカー「それ面白い、効果あるんですか」
自分「まだ二日目なんで、正直よく分からなくて」
スピーカー「ちょっとその話、今度みんなにも聞かせてよ」
自分「え、いや、そんな大したことでは」
(心の声:まずい。「みんなにも」という言葉が出た時点で、配信ルートはすでに確保されている。)
スピーカー「絶対受けると思うんだよね、そういうネタ」
自分「あの、これあんまり広めないでもらえると」
(心の声:撤回を試みたが、遅すぎたかもしれない。相手の中ではすでに配信予定リストに追加済みだろう。)
スピーカー「大丈夫大丈夫、悪い話じゃないんだから」
そのとき、スピーカーのスマートフォンが鳴り、画面に「至急」の文字が表示された。
(心の声:外部割り込み発生。しかも今日はこちらの都合ではなく、相手側からの緊急招集だった。)
スピーカー「あ、やば、今すぐ会議室来いって。ごめん、また今度、さっきの話聞かせて」
自分「あ、はい……」
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待機ルームに一人残されながら、今日のログを振り返る。
好感度ハックは、自分の情報を差し出すことで関係性を強化する戦略だが、相手がブロードキャスト型のスピーカーだった場合、この前提そのものが致命的なリスクになる。差し出した情報は、良い印象を稼ぐための燃料ではなく、そのまま社内全体への配信素材として消費されてしまう。
今日いちばん恐ろしかったのは、緊急招集という外部割り込みによって、訂正や撤回のチャンスすら与えられないまま会話が中断してしまった点だ。いつものセッションなら、外部トリガーは危機からの生還を意味していたのに、今回はむしろ、危機を未処理のまま放置される結果になった。あの健康グッズの話が、今この瞬間にも誰かに語られているかもしれないと思うと、落ち着かない。
今日から持ち帰るなら、「ブロードキャスト型の相手には、そもそも好感度ハックを発動しない」という一点に尽きる。この手のノードにとって、親近感を示す自己開示は、そのまま拡散許可のサインとして処理されてしまう。
待機ルームに残された自律神経、残量にして体感五割。今日は珍しく、事態が解決しないまま宙ぶらりんの状態で一日が続いている。
うっかり口を滑らせた瞬間、まさかの緊急招集がかかった
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