新人から本音を聞き出すつもりが、フリーズさせかけた件

データ抽出
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# 新人から本音を聞き出すつもりが、フリーズさせかけた件
本音を聞き出したかったのに、あと一歩でシステムごと固まらせるところだった。
隣の部署の飲み会に紛れ込んだ今日、視界の端に新人が一人、直角の姿勢で座っているのを検知した。上司陣が席を離れた隙を突き、本音という名の非公開情報を引き出しにいくことにした。相手はまだ会社という戦場のルールを飲み込めていない初期ロット機である。ここで無理に踏み込めば簡単に処理落ちすることは分かっていたはずなのに、酒の入った脳内CPUは、なぜか学生時代にハマっていたカードゲームの戦術理論を引っ張り出し、「まずは軽い質問で相手の手札を覗く」などと物騒な作戦を組み立て始めていた。

自分「〇〇さん、最近どうですか、慣れてきました?」
新人「あ、はい、慣れて、きて、おります、精進いたします」
(心の声:即座に敬語のオーバードライブが起動した。緊張した相手ほど、こちらの質問を防御カードとして使いがちだ。焦らず様子見のターンを重ねる。)
自分「そんな畏まらなくていいですよ、飲み会ですし」
新人「はい、あ、失礼しました、その、頑張ります」
自分「今の部署、雰囲気どうですか?」
新人「とても、良くしていただいて、おります、はい」
(心の声:模範解答という名の鉄壁シールド。まだ本音カードは伏せられたままだ。)
自分「みんな優しいですか?特にリーダーの人とか」
新人「え、あ、その……熱心な方だと思います……!」
(心の声:見え見えの防御反応。だがここで畳み掛けたら相手の処理能力が限界を超える。搦め手で行く。)
自分「なるほど、まあでも慣れですよね。ちなみに休みの日って何してます?」
新人「え、休みですか、えっと、家で、その、資料を読み返したりして……」
(心の声:休日まで仕事に溶かしている。データは十分すぎるほど取れた。これ以上の追撃は不要な自傷ダメージになる。)
自分「え、休みの日まで資料読んでるんですか、真面目すぎません?」
新人「そう、でしょうか、あの、皆さんそうされてるのかと思って……!」
(心の声:完全に手が震えている。質問という名の連続攻撃が、相手のリソースをゼロに近づけていた。これは意図しないDDoSだ。)
自分「そんなことないですよ、僕なんて休みは何も考えないようにしてます」
新人「そう、なんですか……、見習います……!」
自分「いやいや見習わなくていいですから」
(心の声:ちょうどそのタイミングで運ばれてきた大皿料理に、新人の視線が逃げるように移動した。環境トリガーによる強制終了。あと一問多ければ、本当にフリーズしていたかもしれない。)
自分「あ、来ましたね、食べましょう」
新人「は、はい……!」

会場に戻る前に、少しだけ反省した。
データ抽出というプロトコルは、本来「余裕のある相手」に対してこそ機能する。今日のように、まだこの会社という戦場のルールにすら慣れていない新人に、テンポよく質問を重ねていく戦法は、相手のスペックを完全に見誤った運用だった。学生時代のカードゲーム理論を無意識に引っ張り出してしまったのも、結局は自分の得意分野に逃げ込みたかっただけかもしれない。
厄介なのは、この手のクエリ攻撃は悪意なく起動してしまう点にある。単に「仲良くなりたい」「相手を知りたい」という善意のつもりが、受け手のリソースが少ない場合には、そのまま一方的な負荷になる。新人の敬語が加速していく様子は、まさに処理能力の限界が近づいているサインだったのに、自分はそれを「緊張してるだけ」と誤読し続けていた。
今日から持ち帰るなら、「質問のテンポは、自分ではなく相手のレスポンス速度に合わせる」という一点に尽きる。相手の返答が詰まり始めたら、それはこちらの攻めを緩めろという合図であって、畳み掛ける理由にはならない。
飲み会明けの自律神経、残量にして体感五割。新人を壊さずに済んだのは、運ばれてきた一皿の唐揚げのおかげだと言っても過言ではない。次に会ったときは、もう少し優しいペースで話しかけようと思う。